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「あら、お帰んなさい。随分早かつたのね。もう済んだんですか」
房一は生返事をしてからふり向き、うなづいて見せた。彼はよく聞いてはいなかつた。
小谷はやさしみのある顔をぽつと紅らめ、いくらか饒舌になり、それと共によけいきいきいする声で話した。
「一体どうしたというのだ。」
「どうしなさつた」
「そんなことができるもんかねえ」
盛子は笑ひながら顔を紅らめた。
「畜生、弱い奴だ」と、根津は笑った。
房一のまはりには三人の男が立ちかこんで、黙つて治療の様子を見まもつていた。背中をむき出しにして横向きに寝た男は、傷を洗はれるときに呻うめいた。血の気の引いたその顔にはどす黒い蒼白さが現れた。
瞬間、房一は緊張した。道平が急変したのかと思つた。さうではないらしい。急患だらうか。それだと、こんな風ではなく、もつと低くおろおろした風に云ふ筈だ。彼は手をやめて、耳をすませた。
「つい今日まで挨拶にも行かずじまひになつてね、どうも済まなかつた」
「やあ」